11月のコラム 電車の中で・・・
顧問先へ向かう電車の中でのことです。立っている私の目の前の席に座っている男性が、なにやら書類を広げて熱心に見ています。・・・なんと賃金台帳です。会社名も従業員の名前も給与の金額も、その気はなくても目に入ってきます。自分の会社の書類?それとも社労士事務所や税理士事務所の職員?などと、想像を巡らせていると、次に取り出したのは別の会社の賃金台帳。さらに決算書や労働保険関係の書類まで出てきました。おまけに、作業が終わっても膝の上に広げたままスマホを触っています。もちろん、あえて内容を見るようなことはしませんが、気になります。職業と性格上、何度も注意したくなりましたが、逆切れされても怖いので、声をかけることはしませんでした。
賃金台帳は重要な個人情報です。電車の中で広げて見るなど、あってはならないことです。このような情報を扱う以上、その重要性は、認識されているはずです。それなのに、なぜこれほど無防備に書類を広げられるのでしょうか。
単なる油断?忙しさのあまり、切羽詰まっていて気が回らなくなっていた?毎日のように大量の資料を扱っているうちに、その重要性に対する感覚が薄れてしまっていた?同情すべき事情があったのかもしれませんが、他社の賃金台帳など、誰でも見ることができるものではありません。会社がその人、あるいはその人の所属する組織を信頼しているからこそ、扱うことができるものです。
連日、企業への不正アクセスによる情報漏えいのニュースが流れています。もちろん、どれほど対策を講じても、被害を完全に防ぐことは難しいのでしょう。しかし、リスクを認識しながら対策を先延ばしにしたり、必要のない情報を保存し続けたりすることが、被害を大きくしてしまう場合もあります。電車の中で書類を広げることとは、原因も状況も異なります。しかし、情報を守るという点では、どちらも軽視できません。
電車の中で見かけた光景は、日々の仕事の中に潜む、ごく身近な危険の一つです。「これくらいなら大丈夫」という油断は、慣れた頃にこそ生まれるのかもしれません。
大切なものを預かっているという責任と、相手から寄せられた信頼の重み。そのことを、どれほど仕事に慣れても忘れてはいけないと思いました。
2026年11月 水田かほる







